こんな時はどうやって遺産分割するのか?〜相続手続きのご依頼後、司法書士は何をしているのか?3.5〜
相続手続では、ご依頼を頂いたら一番先に、亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本を取得して、相続人が誰になるのか、何人になるのかを確定させる作業を行います。
確定した相続人の間で遺産分割協議をしようとするとき、以下のようなケースがあります。
① 相続人のなかに全然知らない人がいる
または、存在は聞いたことがあるが面識はない、連絡の取りようがない人がいる
② 相続人のなかに海外に住んでいる人がいる
③ 相続人のなかに行方不明の人がいる
④ 相続人のなかに認知症等で判断能力がない人がいる
⑤ 相続人が手が不自由などで署名できない・捺印できない
⑥ 相続人が誰もいない
あくまで一例ですが、相続のご依頼が多い当事務所では、よくいただくご相談でもあります。
遺産分割は必ず相続人全員で!と言っても、上記のような場合は、どうしたらよいのでしょうか・・・?
1つずつ、見ていきます。
①相続人の中に面識がない、全然知らない人がいる
亡くなった方に認知したお子さんがいたり、前配偶者との間に子がいるなどの場合に起こりえます。
この場合は、まず、ご親族の中に知っている人がいないか、連絡がつく人がいないかを確認してもらい、誰も知らないということであれば、住民票や戸籍の附票 を取得して住所を調べて、遺産分割に協力してもらえないか、という内容のお手紙を差し上げることが多いです。
司法書士や弁護士や行政書士から、突然相続の連絡がきたんだけど・・・?!何で私のこと知ってるの?住所知ってるの?
という方もいるかもしれません。その場合は恐らく、相続人のどなたかが士業の先生に依頼し、その先生が調べた上で、連絡がきたと思われます。
相続人に連絡がついて、遺産分割協議に参加する意思が確認できれば、遺産分割を進めることができます。
②相続人が海外に住んでいる
以前のコラムにもちょっと記載していますが、相続人が海外に住んでいるからと言って、その人を遺産分割から除外することはできません。
とはいえ、海外には印鑑とか印鑑証明といった制度がない国がほとんどなので、捺印ではなくて、大使館や領事館でサイン証明をしてもらうことになります。
メールで遺産分割協議書を送って、海外在住の相続人に、遺産分割協議書などの書類を大使館・領事館に持って行ってもらい、その場でサインをして証明をもらうという流れになります。
③相続人に行方不明の人がいる
大体の方は住所さえ確認できれば、何らかの連絡はとれることがほとんどですが、
住民票を異動しないまま転居しているなどの場合、住民票上の住所地に手紙を送っても届かず、宛所不明で戻ってきてしまうので、これ以上居所を調べる方法がない、ということがあります。
その場合は、住民票上の住所地にまず行ってみます。
どなたか住んでいらっしゃれば、その方にお話を聞きます。
私がやったわけではありませんが、近所の人に聞き込みをした、と言う話も聞いたことがあります。
とにかく何とか手がかりを探し、どうしようもなければ、
不在者財産管理人選任
という手続きが必要になるかもしれません。
所在不明の人の財産を管理してもらう人を裁判所に選任してもらう制度ですが、この制度を利用して、遺産分割などをしてもらう手続きです。裁判所が選んだ専門職がつきます。
④相続人のなかに認知症等で判断能力がない人がいる
この場合は、認知症等の度合いによって
成年後見人の選任
保佐人の選任
という手続きが必要になる可能性もあります。詳しくはここでは割愛しますが、親族の誰かを候補者として出したり、専門職を候補者として出したりします。一般の方が候補者の場合は、裁判所が選んだ専門職が一緒に就くこともあります。このとき、対象となる遺産分割の当事者(相続人)は、自分の遺産分割とその人の遺産分割を二人分やることになってしまいますから、候補者になることはできません。
例えば、亡くなったお父さんの遺産分割をしたいがお母さんが認知症だという場合、お父さんの相続人である子供は、お母さんの後見人になったとしても、お母さんに代わって遺産分割協議をすることはできません。その場合、裁判所に、一時的に後見人の代わりとなる「特別代理人」という人を選任してもらうといった方法などにより、遺産分割協議を進めることになります。
⑤相続人が署名できない・捺印できない
ご高齢の方や、身体の不自由な方で、文字が書けない場合や捺印ができない場合は、代筆されたり、他の方が印鑑を借りて捺印しても大丈夫ですが、ご本人の意思がしっかり確認できることが絶対条件となります。
遺産分割協議書は、ご自身の意思表示としてとても大事な書類なので、相続手続きで揉めないためにも可能な限りご本人に書いて頂くのが望ましいかと思います。
⑥相続人が誰もいない
ご家族全員が亡くなっているとか、相続人全員が相続放棄をしているとか、兄弟もいないか亡くなっているという場合などに、相続人が誰もいないということがあります。この場合は協議のしようがありません。
そのような場合は
相続財産清算人(旧 相続財産管理人)
を裁判所に選任してもらうことになります。大体の場合、裁判所が選んだ弁護士が選任されることが多いです。
相続放棄しても、財産の管理義務が残る場合、その管理義務を放棄するために、相続財産清算人の選任申立てが必要になる場合もあります。詳しくは、当事務所にご相談ください。